あんぱくの読書記録

読書はこころの栄養素。日々楽しめた物語を記します。

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2015年12月

 ハーバード大学の脳科学者であるジルは、不幸にも37歳の若さで、左脳にあった脳動静脈奇形からの出血を起こして脳卒中に罹患する。つまり彼女の言語中枢が壊れてしまったのだ。幸いにも一命はとりとめたが、著しく損傷した脳機能、言語機能、運動機能を回復するまでに8年の時間を必要とした。本著は、彼女の脳卒中発症日から回復までの記録であり、脳科学者らしく脳機能障害の体験をを患者の内面から大脳の図を使って解説してくれている。


  この体験から、深い心の平和はというものは、いつでも、誰でもつかむことができるという知恵をわたしは授かりました。涅槃の体験は右脳の意識の中に存在し、どんな瞬間でも、脳のその部分の回路にに「つなぐ」ことができるはずなのです。


これは大脳の機能局在として、以前ブームになった右脳と左脳との違いを思い出します。品川嘉也先生が右脳理論や右脳型人間が話題でした。デジタル脳の左脳とビジュアル脳の右脳があり、別人格という話もありました。ジル博士は、右脳のみの感覚は外界と自分を区別できないとも言っています。エネルギーとしての連続体という感覚なのでしょうか。そして「神は右脳に宿る」と私は思っています。

  何かを決めなくちゃいけないときは、自分の中でどう感じたかを大切にしました。怒りや苛立ちや恐怖といった不快な感情がからだの中に押し寄せたときには、不快な感じは嫌だから、そういった神経ループにつなぎたくないと伝える。わたしは左脳を利用し、言語を通じて自分の脳に直接話しかけ、自分がしたいこととしたくないことを伝えられるようになったのです。

 
脳卒中によってジル博士がひらめいたことを次のように語っています。


  右脳の意識の中核には、心の奥深くにある、静かで豊かな感覚と直接結びつく性質が存在しているんだ、という思い。右脳は世界に対して、平和、愛、歓び、そして同情をけなげに表現し続けているのです。




奇跡の脳―脳科学者の脳が壊れたとき (新潮文庫)
ジル・ボルト テイラー
新潮社
2012-03-28

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「その女アレックス」の著者P・ルメートルが描いた衝撃的ミステリー。本著がカミーユ・ヴェルヴェーン警部のデビュー作である。2人の女が異様な手口で惨殺されたところから事件は始まる。犯人の悪意に満ちた犯罪計画に戦慄が走るだろう。カミーユ警部とその部下のルイとアルマンは連続殺人事件の捜査を始めるが、やがて第2の殺人事件が発生する。これらの連続殺人事件は、犯罪小説を模倣して行われていた。そして犯人から手紙が送られてくる。その手紙の中で、犯人は次のように自分の使命を語っている。


  わたしの使命は大作家たちが創造した世界を正確に再現することえ、その”正確さ”がわたしの仕事の価値です。だからこそどんな細部も疎かにせず、慎重に検討し、結果を予測しながら進めなければなりません。
ルメートルは過去の犯罪小説をモチーフとしてこの警察小説を組み立てている。この着想は面白い。その一部を列挙してみると、エリス著「アメリカン・サイコ」、エルロイ著「ブラック・ダリア」、マッキルヴァニー著「夜を深く葬れ」、マクドナルド著「夜の終わり」、シューヴァル他著「ロセアンナ」などである。妻を失ったカミーユ警部の今後の活躍が楽しみである。


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 本著は、ミステリーを書いてデビューしたルメートルが初めて書いた小説である。舞台は、第一次世界大戦末期の戦闘と終戦後のパリで、物語は2人の復員兵が起こす前代未聞の詐欺事件と彼らの元上官が起こす戦没者追悼墓地建設の事件である。
 さらに伏線は、親子の確執とでも言うべきものであろう。これについえは深くは語らない。一般に戦争の戦死者は英雄として称えられるが、生きて帰った復員兵にはフランス社会でのみじめな生活がまっていた。同じような状況は、第二次世界大戦後の世界でも見られたのではないだろうか。国を挙げての愚行である戦争に、ルメートルは史実に基づいて書かれた本書を書に皮肉と批判を込めている。「天国でまた会おう」という書名は、「バングレの殉死者事件」で敵前逃亡の汚名を着せられたある兵士が妻に残した言葉から取っているという。ルメートルは、後書きの最後でこう語っている。

そしてわたしの思いはより広く、第一次世界大戦で亡くなったすべの国々の人々へとむかっている。
 戦争を起こして金儲けの種にしている人々がいることに、憤りと悲しみを覚えるのは私だけだろうか。
 

天国でまた会おう(上) (ハヤカワ・ミステリ文庫)
ピエール ルメートル
早川書房
2015-10-16



天国でまた会おう(下) (ハヤカワ・ミステリ文庫)
ピエール ルメートル
早川書房
2015-10-16

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ドラッカーのマネジメント論が経営の基本書であることは周知の事実である。彼が解く概念のひとつに「顧客」があるが、組織にとってこの定義が難しい。さて、では高校の野球部の顧客とは誰なのだろうかを考え直させられた。また、自分と自分の組織の顧客は誰かを考えなくてはならない。それにしても野球部のマネージャーになるから、「マネジメント」の本を買ってみたというのが面白い。それをバイブルのごとく読み尽くして、野球部員を甲子園という目標へ引っぱって行く。さらに、「知識労働者」である専門家にとって彼らの難解な専門用語を分かりやすく読み解くつまり翻訳する者としてもマネージャーが必要であることが解説されていたことも興味深かった。読み進めていく中でいろいろなマネジメント手法が描かれていく。「成果」を求められる新任マネージャーのドラッカー入門書としてお勧めの一冊である。

 
 

もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら
もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら
おすすめ平均
starsもう一歩ドラッガーが腑に落ちました
stars「目から鱗」のドラッカー、「目から涙」の小説
stars評価の分かれる本
stars芥川賞の受賞を真剣に期待します!
stars表紙のイラストをもう少し良いものにしてほしかったですね。カバー必須です。恥ずかしくって・・・

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