あんぱくの読書記録

読書はこころの栄養素。日々楽しめた物語を記します。

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2015年02月

「雨天炎天」は、村上春樹さんの旅行記である。ギリシャ編とトルコ編に分かれている。ギリシャ編は、アトス山のあるアトス半島の修道院を巡る旅であり、トルコ編は黒海と地中海に挟まれたトルコを一周する旅である。

言い伝えによれば聖母マリアがキプロスに住むラザロを訪れようとして船に乗ったところ、嵐で航路を外れたが、神の導きによってこのアトスの海岸に流れついたということである。それまでこの地はおぞましき異教徒に支配されていたのだが、聖母マリアがその海岸に足を触れるやいなや、すべての偶像は粉々に砕け散ってしまった。マリアはこのアトスを聖なる庭として定め、女性はこの地に足を踏みいれることなかれと宣言した。そうしてアトスは神に祝福された聖なる地となったのである。

したがってアトス半島の修道院には男性の僧侶しかいない。つまり女人禁制となっているわけである。村上氏はアトス山の険しい山道を修道院から修道院へとひたすら歩くのである。ここには旅行者らしき人々はいるが、ほとんど全員が巡礼にやって来たギリシャ人だ。

修道院に到着すると、まず係りの僧侶がギリシャ・コーヒーと、ウゾーを水で割ったものと、ルクミという甘いゼリー菓子をだしてくれる。どこの修道院に行っても、このルクミという菓子は必ず出てくるわけだが、これはも歯が浮いて顎がむずかゆくなるくらいに甘い。

このウゾーは日本の焼酎のようなもので、これに水を入れると白濁する。もちろんギリシャ・コーヒーにもたっぷりと砂糖が入っているようだから、糖質とアルコールで疲労回復をしているわけだ。この習慣は、日本のお遍路さんへの接待と似ている。




雨天炎天―ギリシャ・トルコ辺境紀行 (新潮文庫)
村上 春樹
新潮社
1991-07-30



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およそ20億年前に生命が誕生したと言われている。当初の生物は、ひたすら分裂し、増殖するだけの単細胞であったから不死であった。いつの頃からか進化した生物は死ぬようになった。人間は約60兆個の細胞からなる多細胞生物であり、こんなにも多くの細胞を合理的にコントロールするために、「死の遺伝子」が必要になったものと考えられている。これは1つの仮説である。田沼靖一氏は次のように語っている。
 
 「プログラムされた細胞の死」は「アポトーシス」と呼ばれ、過去20年の間に着々とメカニズムの解明が進み、さまざまな場面で応用が試みられるようになりました。しかし、生物の細胞に起こるアポトーシスについて、そのメカニズムに統一の原理があるのかどうかはいまのところわかっていません。「生物の細胞がなぜ死ぬのか」という根本的な問いの答えは、まだ見つかっていないのです。
細胞の死には、ネクローシス(necrosis)とアポトーシス(apoptosis)の2種類がある。このことを初めて報告したのは、病理学者のJFカー(J.F.Kerr)氏でした。彼は、1972年に書いた論文(Br J Cancer. 1972 Aug;26(4):239-57)で、細胞が自ら一定のプロセスを経て死んでいく、壊死つまりネクローシスとは別の死に方があると考え、アポトーシスと名づけた。簡単なたとえると、ネクローシスは細胞の事故死であり、アポトーシスは細胞の自殺であると言えるでしょう。アポトーシスが細胞の自殺であると言っても、細胞が自ら勝ってに死ぬというわけではない。すなわち細胞は、細胞内外からの情報シグナルの命令によりアポトーシスを起こすものと考えられる。たとえば、インターロイキンや腫瘍壊死因子(tissue necrosis factor; TNF)などのサイトカインなどがあるだろう。
これらのアポトーシス誘導因子は、炎症誘導因子でもあるようだ。

細胞の分裂回数に限りがあることを最初に発見したのは、アメリカのレオナルド・ヘイブリックです。

ヘイブリックは人間の胎児の肺組織を使い、ばらばらにした細胞を培養液のなかで培養しては、増殖したものをまたばらばらにして培養するという実験を行いました。こうして培養を何代もわたって続けた結果、人間の細胞がおよそ50~60回を上限に分裂できなくなることに気づいたのです。ヘイブリックの名前をとり、細胞の分裂回数の上眼は一般に「ヘイブリック限界」と呼ばれています。
ヘイブリック限界つまり細胞の分裂回数の限界を決めているものが、染色体の末端にあるテロメア(telomere)であることは今では周知の事実である。テロメアは、真核生物の染色体の末端部にある塩基配列の反復構造で、染色体末端を保護する役目を負っている。 TTAGGGの塩基配列が哺乳類で数百回、人間の生殖細胞では約1万 5000~2万塩基対も繰返されている。これが長いほど人間は長寿になるが、加齢とともにテロメアは短縮していく。ただし、幹細胞、生殖細胞、ガン細胞の3つにあるテロメアは短くならない。というのもこれらの細胞では、テロメラーゼ(telomerase)という逆転写酵素が働いているからだ。染色体を修復しているということだ。

人間の最大寿命はだいたい120歳で、皮膚細胞は50~60回分裂することができます。マウスやラットの最大寿命は3~5歳ほどで、皮膚細胞は8~10回ほどしか分裂できません。また、長生きすると175歳にもなるというガラパゴスゾウガメでは、約125回も細胞分裂が可能と言われています。
すなわち、テロメアという回数券を使い切るとアポトーシスが起こり細胞が死ぬというわけである。回数券の枚数は動物種によって異なっていることが分かる。

人間の細胞は修復能力が非常に高く、ほかの多くの動物と比べてガン化しにくいことが知られています。他方、ネズミは細胞の修復能力が低く、ガンになりやすいのですが、これは生物として「DNAのキズを修復するかわりに、子どもをたくさん残す」という戦略を採っていると考えることができるでしょう。人間は高いDNAの修復能力と長寿命を持つ一方で、子孫をあまりたくさん残せない生き物なのです。
人間は約60兆個の細胞を長寿に保つために、DNA修復能力を高度に発展させてきたということであろう。突然変異による進化が、哺乳類の人類を発生させたとも言える。



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村上春樹氏が1992年2月に渡米しプリンストンで「ねじまき鳥クロニクル」を執筆中にスピンアウトした小説のようである。主人公の始くんの少年期から中年期までの人生模様が描かれている。小説の題名の「国境の南」は、ナット・キング・コールの歌だ。少年時代を回顧する主人公は、島本さんという彼女の隣に座って次のように「国境の南」を思い出している。
  ナット・キング・コールが『国境の南』を歌っているのが遠くの方から聞こえた。もちろん、ナット・キング・コールはメキシコについて歌っていたのだ。でもその当時、僕にはそんなことはわからなかった。国境の南という言葉には何か不思議な響きがあると感じていただけだった。その曲を聴くたびにいつも、国境の南にはいったい何があるんだろうと思った。
少年にとって、国境の南とは遠い場所、地平線のむこうのような風景なのだと思う。行ったこともない地平線の彼方に何があるかなんて、子供の頭にはわからなかった。





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 本著は、「週刊文春2014年ミステリーベスト10」堂々1位! 「ミステリが読みたい! 」「IN POCKET文庫翻訳ミステリー」でも1位をと3冠を達成したミステリーである。表紙の女性の絵とミステリー大賞3冠という売り文句に思わず書店の平積みから1冊を手にとってしまった。しばらくはベッド横の棚に寝かしておいたのであるが、ある日読み始めたら、一気読みしてしまう面白さだった。想定外の物語の逆展開に驚いた。訳者の橘明美さんもあとがきでつぎのように語っている。


「この作品を読み終えた人々は、プロットについて語る際に他の作品以上に慎重になる。それはネタバレを恐れてというよりも、自分が何かこれまでとは違う読書体験をしたと感じ、その体験の機会を他の読者から奪ってはならないと思うからのようだ」

したがって孤独な美女のアレックスについては多くを語れない。なお、どぶねずみと檻の描写がグロテスクなところがあるので、苦手な人にはお勧めできないかもしれない。
 

その女アレックス (文春文庫)
ピエール ルメートル
文藝春秋
2014-09-02



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