「雨天炎天」は、村上春樹さんの旅行記である。ギリシャ編とトルコ編に分かれている。ギリシャ編は、アトス山のあるアトス半島の修道院を巡る旅であり、トルコ編は黒海と地中海に挟まれたトルコを一周する旅である。
言い伝えによれば聖母マリアがキプロスに住むラザロを訪れようとして船に乗ったところ、嵐で航路を外れたが、神の導きによってこのアトスの海岸に流れついたということである。それまでこの地はおぞましき異教徒に支配されていたのだが、聖母マリアがその海岸に足を触れるやいなや、すべての偶像は粉々に砕け散ってしまった。マリアはこのアトスを聖なる庭として定め、女性はこの地に足を踏みいれることなかれと宣言した。そうしてアトスは神に祝福された聖なる地となったのである。
したがってアトス半島の修道院には男性の僧侶しかいない。つまり女人禁制となっているわけである。村上氏はアトス山の険しい山道を修道院から修道院へとひたすら歩くのである。ここには旅行者らしき人々はいるが、ほとんど全員が巡礼にやって来たギリシャ人だ。
修道院に到着すると、まず係りの僧侶がギリシャ・コーヒーと、ウゾーを水で割ったものと、ルクミという甘いゼリー菓子をだしてくれる。どこの修道院に行っても、このルクミという菓子は必ず出てくるわけだが、これはも歯が浮いて顎がむずかゆくなるくらいに甘い。
このウゾーは日本の焼酎のようなもので、これに水を入れると白濁する。もちろんギリシャ・コーヒーにもたっぷりと砂糖が入っているようだから、糖質とアルコールで疲労回復をしているわけだ。この習慣は、日本のお遍路さんへの接待と似ている。