ある商社マンの回想から物語は始まる。彼が世界を仕事をして転々と回ったときに見た夢の話だ。任地で寝るときに、いつもベッドには2つの枕が用意される。白い枕と黒い枕。寝る前に枕を選ぶことで、見る夢つまり良い夢と悪い夢を決めることができる。

 夢の話と言えば、フロイトの「夢判断」と夏目漱石の「夢十夜」を思い出す。「夢判断」は、1900年に発表された、オーストリアの精神科医ジークムント・フロイト(Sigmund Freud, 1856-1939 )による夢に関する精神分析学の研究である。本書の中でも浅田次郎氏は主人公である都築氏の夢について、精神分析学的解説を加えている。「夢十夜」では、漱石が夢の話を語るだけであるが、本書では夢と現実が交叉して独自の世界が構築されている。「地下鉄(メトロ)に乗って」などの作品にみるように、これは浅田次郎氏の得意とする文章構成だ。

 
 


 
ブラック オア ホワイト
浅田 次郎
新潮社
2015-02-20